それは 悲しい始まり
■暗躍者
『ねぇ、。“AKUMA”の作り方って知ってる?』
『悪魔って・・・あの尻尾が生えてて頭に触角がある、あの?
それとも神話とかに出てくるデーモンの類?
でも、あれらって基本的に空想上の生き物じゃ・・・』
『あ、そっち系統じゃなくて。
私が言ってるアクマって言うのは ――――― 』
いつものひと時、いつものテラスで、いつもの様に語り合う筈だった私達。
でも、今回は趣向が違ったのか、暖かな日差しの中で語らうには少々内容的には場違いなオカルト系。
確かにカズサの家はキリシタンだからそういう系統の言い伝えは多いのかもしれない。
けれども、カズサの口から紡がれる内容は一概に言い伝えなんていう古い伝承なんかじゃなかった。
死者の魂を容れた機械を媒介に、死者を思う人の躯を媒体に、悲劇を糧として生まれる哀しき悪性兵器
―――
それが“AKUMA”。
想う事は大切だけど、それは時に最悪の方向に傾く事で更なる悲劇を生む材料となる・・・・・・
カズサは外見上は物語を紡ぐように話しているのに、その纏う空気はピリピリした物を感じて私は彼女の意図を掴めない。
何故 それを今話さなければならなかったのか
何故 それを私に話すのか
私がそれらを理解するのは ―――――
まだずっと先の事。
翌日、カズサは変わり果てた姿で、物言わぬ骸となって発見された。
泣き崩れる私の前に唐突に現れた奇妙な人物。
その人物は言った、『カズサ・レイティアを甦らせてあげましょうカ?★』と。
私は悟った、『あぁ、この人が<製造者>なのだ』と。
生まれ持った不思議な力のせいで家族以外に心を許せる人なんていなかった。
人を信じる事が出来なくて、いつも人に、見えない何かに、そして、そんな自分自身の力に怯えていた。
カズサだけだった、家族以外に大切な存在だったのは。
以前の自分ならこの呼び掛けに迷わず頷いていただろう。
けれど、昨日の話を聞いていた今の自分の胸中を占めるのは
―――
葛藤。
<製造者>である千年伯爵は私が首を縦に振らないのを不思議に思ったのだろう、更に問いを重ねてきた。
『大切なんでしょウ? 彼女ガ。
我輩の声に応え、頷きさえすれば彼女の魂を呼び戻し、甦らせる事ができるのニ★』
私はショックで正常に働かない頭と体で、必死に首を左右に振った。
『なぜ・・・?・・・まさカ、アクマの理を・・・??』
『知っている、と言ったら・・・貴方は・・・私を殺すんですか・・・?』
私は秘密を知ってしまったから 頷く事はできない
―――――
私はこの時、アクマの理を知っている自分は殺されるものだと思っていた。
しかし、私の問いに、<製造者>は首を傾げる仕草を見せる。
『殺す・・・? とんでもなイ★
我々に貴女を殺す事など出来ませン。
何故なら貴女は ―――――――――― 』
コーヒーの入ったカップと羽ペンを片手に、もう片手に書類の束を抱え、目には深い隈を携えて。
今日も今日とてサービス残業真っ最中のリーバーは、上司であるコムイに向かって仕事をしろと叫ぶ。
そんな日常。
そんなある日、ちょっとだけ変化が起きた。
「はぁ!? 一般市民の保護ォ!?
いつから黒の教団は慈善団体になったんスか!!」
大絶叫を向けられたコムイは、掌で耳を塞いでやり過ごすと、何事も無かった様にコーヒーを啜った。
「我々の目的はそんな崇高な物じゃないよ」
コムイは自嘲気味に笑みを浮かべると、リーバーに向き直る。
「日本に調査に行っていたカズサ・レイティア・・・覚えているかい?」
「あぁ、レイティア博士の一人娘でファインダーだった・・・
でも確かアイツは一年前に亡くなったハズじゃあ・・・・・・」
「彼女は一人の奇怪を起こすと言われていた人物を追っていたんだ」
「じゃあ適合者・・・!」
「それは断言できない。
カズサくんはその人物と接触を図っていてね。 友好関係にあったようだよ。
博士は一度その人物にカズサくんを通して会った事があるらしいけど・・・適合者かという確認は取れてない。
教団側がそこにエクソシストを派遣しようとしていた矢先、カズサくんは命を落とした」
「・・・確か・・・グリーンランドで別のイノセンスが発見された頃、でした?
資料が少なくて確証がなかった上にアイツが亡くなったモンだから、これ以上そっちに人員は割けないって、そのままお蔵入りになったっていう。
何で今頃またその話が出たんです?」
「博士はその人物を随分心配していてね。
カズサくんが亡くなってからずっと、教団で保護すべきだと主張していたんだ。
もし適合者なら取り返しがつかなくなる、とね。
奇怪な力があるというだけで、確証も無いのに部外者を入れるわけにもいかないから上層部も随分渋ってね。
結局、博士への返事を延ばし延ばしにしていた様だよ。
だけど、事態が変わったんだ」
コムイは肩を軽く竦め、フゥ、と息を吐き出した。
「変わった?」
リーバーは眉を寄せる。
「そう。
<千年伯爵>がその人物に何度も接触しているという報告が入ったんだよ」
「まさか・・・!? もうアクマにされてるんじゃ!?」
「それはないよ。 確認も取れてる」
「ならどうして・・・・・・」
「伯爵はカズサくんの死後、例の“契約”の話を持ち掛けた様だ。
けれどもその人物は今現在も生きている。
大量虐殺の報告も入っていない」
「契約の話を断ったという事っスか・・・?」
リーバーは信じられない、という顔をする。
今だ嘗て千年伯爵の囁きに応じなかった人間がいたという報告は聞いた事が無い。
伯爵がそんな人間を生かしておくとも考えられない。
死者を大切に思うから、人間がいるからこそアクマが誕生するのだ。
「あぁ、リーバー班長、その人物がカズサくんを大切に思っていなかったとか、そういうことはないから」
コムイが先手を打つように言葉を挟む。
「これはボクの推測だけどね、カズサくんはアクマの理をその人物に話していたんじゃないかな。
だから伯爵の話に応じなかった。
だけど、千年伯爵は合理主義者だ。
自分の話に応じなかった人間を殺して、また新たなアクマを作る事なんて何てこと無い筈だ。
伯爵の目的は恐らくアクマの誕生ではなく ――― その人物が持っている力を自分の陣営に引き入れる事」
「千年伯爵が狙っている力・・・・・・?
それなら寧ろ、適合者と言うより ――――― 」
「そう、伯爵の目的から考えるなら、エクソシストの力よりも、更に強大な・・・
“世界の終焉”に深く関わる力じゃないかと考えているんだ。
世界中の命が懸かってるんだ、実際伯爵側も動き出してる以上、事態は急を要するんだよ」
「そりゃ部外者だとか取り繕ってる場合じゃないか」
「既にエクソシストを派遣している。
後、一週間もしたら報告書なんかで忙しくなると思うよ?」
そういってニヤリと笑みを浮かべたコムイ室長の背後には悪魔の尻尾が、実に楽しそうに揺れていた・・・・・・
後にリーバーはそう語る。
ついさっきまでまじめな話だったのに・・・この上司はなんでシリアスが長く続かないんだろう・・・・・・
リーバーは人知れず溜息を吐く。
上司に恵まれなかったら ――――― 某スタッフサービスの電話番号が頭をよぎった。
――あとがき――――――
ハイ! またも始めてしまったシリアス連載です。
でもですね、言い訳をするなら、これは一章目なんですよ。
この連載が終わったら日常編に移って逆ハーなんて書きたいなぁ、なんて・・・
ますます自分の首を絞めているような気がしてなりません。
ヒロインを迎えに行ったエクソシスト、誰だと思いますか?
そこでその相手とドラマのような愛が芽生え・・・たりはしません(キッパリ)
出会いは か な り 強烈になる予定ですから。
・・・ええ、捻くれてるって事は自分がよく分かってますから・・・・・・!(残念!)
up:2005.10.1