いつか あなたも 笑ってくれますか ?















 ■隠すもの















 「ただいまさぁ〜」



 切り立った崖の上にそびえ立つ、いかにも怪しげな風体を醸し出す建物。 

 そんな外見が怪しい事この上ないここ、『黒の教団』に、場違いとも言える様な呑気な声が響く。



 「ご苦労さま、ラビくん。
  道のりに何か問題はなかったかな?」


 「うんにゃ、これといって問題は無かったさ。
  アクマの妨害も全くナシ」


 「その割には予定より時間が掛かったようだけど・・・?」




 ラビ、と呼んだ白衣を着た男性、コムイがトレードマークである眼鏡をクイ、と指で押し上げ、ニヤリと笑う。


 「あーのーなー、そんじゃ言わせてもらうけど。
  資料が少なすぎさ!
  その上、分かってるのは名前と当時住んでた地域くらいで、本人の写真は無い上に資料が古い!
  アクマの妨害がどうとか言う前に、調査に行ってたカズサの妨害に会った気分さ」


 「あははー、それは災難だったねー。
  でも、あまりカズサくんを責めないでやってくれないかな?
  その人を巻き込まない為の、彼女なりの抵抗だったんだ」


 「そりゃそうだけどさー・・・
  それに、オレの“槌”を帰路に使えばもう少し早く帰れたはずさ」

 
 「ラビくん・・・確かに僕は『アクマの襲撃以外の槌の使用の禁止』を言い渡した。
  だけどね、それは仕方のない事なんだ。
  キミの槌の使い方は目立ちすぎる。
  障害物にぶつかったら破壊する、移動する時は空を飛ぶ、では向こうの人達にとっても嫌でも目に付く。
  あくまで今回の任務は向こうの人達にも、<千年伯爵>側にとっても秘密裏に行う必要があったんだ。
  いずればれるだろうけど、少しでも時間を稼いでおきたくてね」















 「とかなんとかそれらしい事言っちゃってー。
  ・・・で、本当の所は?」


 「ブレーキさえまともに使えない君の槌で帰ってなんかきたら、教団の建物や普通の人間なんかひとたまりもないでしょー?
  只でさえこないだコムリン作ってちょーっと教団にヒビを入れたくらいで経理の責任者から“破壊活動は控えろ!”って、厳しーくお咎め受けちゃってるんだから」



 「「「半壊はちょっとのヒビなんていいません!!!」」」








 「ん〜、聞っこえませ〜ん☆」








 「「「(・・・この野郎・・・・・・・・・!!)」」」










 広い講堂に殺気が充満し始めた頃、ようやくコムイは今回の任務の目的を思い出す。






 

 「そういえばラビくん、その連れてきた筈の人物は?」


 「あ〜、門番の所で検査受けてる。
  ここまでの道は教えておいたからそろそろ・・・お、きたきた」



 ギギィ・・・と大きく重厚な扉が、その年季に相応しい軋みを立てながら片側がゆっくりと開く。




 どんな人間が教団に足を踏み入れたのかと、扉の元へと視線が集中する。








 カツリ
―――――


 ブーツを履いた足が踵と床とを打ちつける音が落ちる。






 薄暗い廊下から明るい講堂へと真っ先に映し出されたのは
―――― 仮面。

 光の関係で見えなかったためか、腕、頭、足、と徐々にその人物の姿形が講堂に現れる。















 ザワリ
―――――――――













 講堂にいた人達が一斉にざわめく。
















 不気味な人物だった。

 顔全体を覆う仮面で顔を隠し、身に纏うローブで身体つきを隠し、頭はフードを深く被り、手は手袋に覆われている。

 背丈はそんなに高くはないが、女性かもしれないし、少年かもしれない、はたまた腰の曲がっていない老人かもしれない。

 歳も、性別も判らない。

 明らかになっているのは、その存在のみ
―――――










 そんな中、真っ先に落ち着きを取り戻したのは、エクソシストや探索部隊などのメンバーだった。

 彼らの中には風変わりな人物も多く、また、傷を負ったことにより顔を隠すといったことがたまに起こるため、『隠す』という現象は比較的目にすることが多い。

 中でも、まだ新人の部類に入るアレン・ウォーカーは、エクソシストと名乗るまでの三年間、仮面で顔の半分ほどを覆われた変わり者の元帥の下で修行を積んでいたのだ。

 最初は驚くかもしれないが、それを引き摺るほどヤワな性格はしていない。








 「お〜、迷わなかったか?」


 ラビの問いに、その人物はコクリと頷く。

 その様子を見て、コムイがようやく気を取り直したようにその人物に歩み寄った。


 「ど〜も初めまして。
  ここ、黒の教団本部で科学班室長をしているコムイ・リーです」


 そう言って手を差し出すコムイに、その不気味な人物も自分の手を差し出す。



 握手を終えると、その人物はローブのポケットからペンの付いたメモ帳を取り出し、ツラツラと何かを書き出した。
 
 そして書き終えると、コムイにそのメモ帳を差し出す。


 【声が出ないもので、筆談で失礼します。
  初めまして、 といいます。
  この度は、連絡及び迎えにまで来ていただいて、本当にありがとうございます】


 コムイが読み終えて視線を向けると、人物は深々と一礼した。

 どうやら、見た目より中身はまともらしい。


 「え〜と、声が出ないのは先天的なもの?」

 

 コムイの問いに、人物は首を左右に振る。


 「じゃあ・・・一年前の、あの事件で・・・?」



 その言葉に、人物は微かに身を固くしたようだった。

 もっとも、その事に気付けたのは、近くにいたラビとコムイだけだったが。


 「あ〜・・・ここで話をするのもなんだし、司令室の方で話をしようか。  
  リナリー、コーヒー淹れてくれる?」



 そう告げると、コムイは人物を促し、リナリーを連れて講堂から出て行く。

 三人の影が扉の向こうへと消え、扉が閉まったのを確認すると、そこかしこから安堵のため息が漏れ、唱和した。

 中には、床にへたりこんでいる者もいる。

 あそこまでコムイが一方的に喋っていた(様に見えた)沈黙の場が重かったらしい。


 「ラビ、あの・・・あの人、いつからあの仮面付けてたんですか?」

 
 「仮面なら、オレが迎えに行った時にはもう付けてたぜ?」


 「え、帰路の間もですか?」


 「ああ、オレの前では一度も取らなかったな〜
  でも、悪いヤツじゃないさ?
  確かに仮面付けてて表情は読めないし、筆談しか話す手段はない。
  その分、騙したりごまかしたりする手段はごまんとある。
  けどな、アイツはそんな事した素振りは見せなかった。
  ただちょ〜っとぎこちないんだよ、慣れてないっていうか・・・
  何ていうか・・・不器用なだけなんだよ、アイツは」


 「ラビが言うなら、そうなんでしょうね」


 「あの不器用さは
―――― そう、まるでユウの様さ!」










 
 その発言に、丸く収まりかけていた講堂の空気がビシリと音を立てて凍りつく。

 皆の前をペンギンが通り過ぎたように見えた。

 ガタガタ震えだす者もいる。


 「もう眠いよ、パトラッシュ(?)・・・・・・」

 「寝るなー! 眠ったら死ぬぞー!!」



 なんて某名作劇場の名場面の再現や、雪山遭難ごっこがそこかしこで行われている。


 「ラビ・・・そ、それはちょっと・・・
  思わずあの仮面の下に神田の顔想像しちゃったじゃないですか・・・・・・」


 皆を代表して、アレンが引きつった笑みを浮かべながらやんわりと抗議を向けた。


 「ん〜? でも、アイツの顔、ここにいる誰も知らないさ?
  それこそ、ユウのそっくりさんって事も無くはないんじゃねーの?」



 ラビはキシシ、と意地悪な笑みを浮かべる。


 「でもまぁ、初対面であの仮面は流石にちょっとビビッたけどさ・・・」


 「そうですね、唐突に見るにはちょっと驚きますね」


 「でも、オレらにとって『隠す』姿を見るなんて慣れっこだろ?
  その隠しているものが体に負った傷であれ、心に負った傷であれ、だ。
  でもオレらはソイツらを気遣いながらも変わらずに接してきたはずさ。
  アレンはどうだ?
  『ホームの仲間』じゃないと変わるのか?」



 ビシ、と指を突きつけられたアレンは即答する。


 「いえ、変わりません」


 「そゆこと★
  んじゃ、そういう事で!
  リーバー、後頼むな」



 アレンとラビは司令室に向かう為、二人は講堂を後にするのだった。






















 薄暗い廊下を連れ立って歩きながら、ラビは再び口を開く。


 「なぁ、アレン・・・・・・。
  アイツ、あんなに頑なに自分から外界を拒絶して・・・どんな傷を負ったんだろうな」




 その問いに答えられるものは、誰もいなかった
―――――――――





 




 
















 
――あとがき――――――
 
 ・・・・・・あれー?
 最初の下書きの段階ではここまで長くなる予定はなかったんだけどなー・・・?
 微妙に笑えないギャグを必死に考えている管理人です。
 今回のタイトルは、『隠す物』と『隠す者』をかけてみました。
 微妙に安直なネーミング・・・ガフ・・・
 こういう二重も三重も意味をかけたようなタイトルを考えるのが好きです。
 だから余計に時間が掛かったりします・・・(致命的)

 さて、前回あとがきに書いた、ヒロインを迎えに行ったエクソシストは、ラビさんでしたー!!
 当たりましたか?
 いや、これかなり悩みました・・・
 1〜2年前に既に教団に在籍していて、それでいてカズサさんに気軽に軽口叩けて嫌味にならない・・・
 顔と名前が一致しているエクソシストって、今現在かなり限られるんですよね。
 最後までラビさんかリナリーさんか迷いましたが・・・
 後半の会話、次回の中身と考えて、ラビさんに決定しました。
 そしたら、今度はラビさんの槌の用途を思い出し、慌てて『今回は使用禁止』の措置をとらせていただきました。

 ああ、行き当たりバッタリって、こういう事をいうんだろう・・ね・・・・ゲフ・・・


 さて、ヒロインの登場ですが・・・衝撃的だったでしょうか?
 登場シーンの参考にしたのは、『女○の教室』だったりします・・・(数回しか見なかったヤツ)

 ああ、真剣に、文才が欲しいよ・・・・・・(今更)
 

 up:2005.10.28