そして 全てが沈黙する















 ■始まり















 『無限城』




 かつて大規模な不景気により建築を途中放棄されたビルの密集地帯。
 
 未だに融合、増殖し続けるビル群に多発する犯罪。
 




 国家がそこにある危機に気付いた時には手遅れだった。

 無限城を中心として、そこに流れ着いた住民は万を数え、生活を営み始めていた。

 選択を迫られた国家は、ついに苦渋の決断を下す。














 それは、その街自体を無い物と見なす事。




 それは、国家権力から見放された、事実上の無法地帯。

 その一帯は『裏新宿』と名付けられ、いずれ公的な地図からも抹消された。



 忘れ去られた街『裏新宿』に圧倒的な恐怖を以てその存在を主張する『無限城』。

 時は平成を迎えていた。















 その下層エリア『ロウアータウン』を統べるのは『新生VOLTS』を結成したまだ年若き少年王、MAKUBEX。

 もちろん、全ての者が賛同しているわけではない。

 先にも述べた様に、中には凶悪な犯罪に手を染めている者さえいる。

 それでも旧VOLTSのトップだった天野銀次が抜けて早二年、再びベルトラインからの恐怖に脅える人々にとって、新たな主導者の誕生はそこに住む住民に生命の活動源を与えた。




 ロウアータウンは以前の様な活気を取り戻しつつあった。












 いくら賑わうストリートでも、そこから一歩横道に入っただけで荒廃した場所に出る。

 もはや道とは言えない、瓦礫の積み重なる路地の更にその奥
――― そこに男がいた。

 男は、このロウアータウンではほとんどお目に掛かる事の無い様な上等の白のスーツを着込み、歩いていた。

 普段なら獲物として目を付けられ、良くて身ぐるみを剥がれ、最悪、殺される事もありうるだろう。

 しかしその男はこの悪環境の中、真っ白なスーツを血にも、埃にさえも汚す事もなく、ただ歩く。

 それは、そのまま男の実力を指していた。











 男は更に奥に進む。

 やがて、ストリートの賑やかさも聞こえない程の所までやってきた。

 先程まではちらほら見られたジャンクキッズや路地でたむろしていた連中も見当たらない。


 


 「やれやれ・・・ようやくテリトリーに入ったようだね」
 
 この辺り一帯に人っ子一人いない。



 
―――― それはここのテリトリーの主の力量を指していた。
 




















 「何者だ」




 突如として、その男以外の者が現れた。

 声から察するに男であろう。

 服は上下共に黒、髪までも黒く、月の無い夜ならばそのまま闇夜に溶け込んでしまえそうな外見に、一際鮮やかな紅眼。

 体躯は一見華奢に見えるが、均等のとれた無駄の無い、それこそ不要な物は一切こそげ落とした様な実用的、かつしなやかな筋肉
―――

 おそらく成人もしていないだろうが、その男が放つ殺気は数え切れない程の修羅場を潜ってきたもの。
 





 気配で分かっていたのだろうか、白いスーツの男は驚く事なく淡々と応える。


 
 「オレは単なる『上』からの使者なんだけど・・・君の主からは聞いてないかい?」

 
 「・・・ついてこい」



 
 男は鏡の言った事に心当たりがあったのか、踵を返すと、先を歩き出した。















 男に案内された建物の中は荒れ果てた外と違い、多少なりとも人が住んでいるという生活感を窺わせる物だった。
 

 
 「失礼します」


 男は一つの扉の前で立ち止まり、中に声を掛けるとそのまま扉を開けた。
 


 「『上』からの客人の様です」

 
 「そう、ありがとう」
 

 

 男の呼び掛けに返ってきた声は意外にも、若い女性のものだった。


 
 「初めまして、かな?オレは鏡形而。
  『上』からの使者としてきたんだ」
 

 「随分な冗談ね。
  貴方の様な実力者が自ら使者だなんて。
  それとも
―――、」
 


 女はゆるりと口許に笑みを浮かべる。
 







 「それをしなければならない程『塔』は人手不足?」

 
 「まぁ確かに人手不足は否めないけどね。
  ちなみに今回はちょくちょく下に降りてくるオレに白羽の矢が立った、それだけの話だよ」
 


 彼女の問いに鏡もまた、笑顔で答える。
 


 「道理で」

 
 「何が?」

 
 「ロウアータウンに活気が戻って賑やかなのに、ベルトラインの連中が嫌に静かだと思った。
  幾ら好戦的とはいっても、貴方がいる場所に、のこのこ突っ込んでくる馬鹿は居ないって事でしょう?」
 
 
 意外に頭は働く連中だ、と言外に告げる。











 
 「それとも・・・? それさえも『塔』の・・・いや、『倉庫』のご意思?」
 

 









 彼女の揶揄した表現に、鏡は笑みを深める。


 
 「君は思った以上に聡明で思慮深いね。
  
―――― 面白い」



 鏡は歩を進め、女の前で立ち止まる。

 そして告げた。















 
 「『バビロンシティ』は君を歓迎するよ」









 「君を迎えに来た
――――― 『沈黙のセイレーン』」




 






































 ―――
あとがき――――――

 え〜・・・謎だらけのヒロインでお送りしました。
 しょっぱなから鏡さん!? といった感じですが・・・
 あ、しかも名前変換ないや・・・
 
 後、ヒロインに付き従っていた男性ですが、実は外見のモデルになったキャラがいたりします。
 名前もまんまなので、まだここでは明かしません。
 彼の身体的な特徴ですが、結構管理人の好みが入っていて、完璧捏造です。(笑)
 ヒョロヒョロじゃないんだけど、細身で、ムキムキじゃないのに筋肉はある、が彼のコンセプトです。
 細いと思ってた人が意外と力が強かったりしたらドキリとしませんか!?(変態がここに!)

 最初はシリアスメインになると思いますが、一章が終わったら日常編という名の逆ハー(実はもうお相手は決まってたり)を書こうと思ってますので、長い目で見守って頂けたらありがたいです。


 追伸・裏新宿や無限城の記述(歴史)って、あんな感じでした?

 up:2005.10.1