気付いた時には もう 物語は 始まっていた
■予兆
それは、いつもの午後の事。
ヘヴンさん曰く、『金運が無い』と太鼓判まで押される俺たちは、今日も金策に苦しんでいた。
いつもと変わらず仕事が無い俺と蛮ちゃんは、日々溜まっていくツケを少しでも清算すべく、今日も今日とて『体で払う』という名目で肉体労働を実践中である。(今回は波児さんの厚意でHONKY
TONKの掃除や皿洗い)
そんな俺達の溜まり場兼、今現在の仕事場に突如鳴り響いた電話の呼び出し音。
ここ、HONKY TONKの場所が場所なだけに、普段は余り掛からない電話の音に驚いて、俺と夏実ちゃんは皿洗いをしていた手を止め、顔を見合わせた。
ここで電話を取ってもいいものだろうか。
俺は少し躊躇する。
というのも、ここのマスター、波児さんは裏新宿の情報を網羅していると言われる程の情報通だ。
今は喫茶店のマスターをしているが、昔は名の知れた裏稼業の人間だったらしいけど・・・
もしかすると、情報を買いたい人かもしれない、昔馴染みのお客かもしれない。
どちらにせよ臨時バイトの自分では勝手が分からず、最終的には波児さんに代わる事になるのだ。
俺はチラリと波児さんに視線を向ける。
波児さんはそんな俺の視線に気付くと、やれやれと首を竦めた。
どうやら俺の言わんとした事に気付いてくれたらしい。
バサリと読んでいた新聞を二つ折りにすると、銜えていたタバコを口から抜き取った。
と、すかさず蛮ちゃんが低頭姿勢で灰皿を差し出す。
波児さんは、さも当然の様にまだ長さがあるタバコを灰皿の淵に置いた。
・・・・・う〜ん、あれ程プライドの高い蛮ちゃんがあそこまでヘコヘコしているなんて・・・
そこまで切羽詰っているのか(財布の管理は大抵蛮ちゃんなので、俺は良く知らない)、はたまた波児さんの出した条件がそんなに良かったのか・・・
とにかく、早く借金を全額返さないと・・・
携帯も止められたままじゃ仕事にもならない。
依頼がこないと収入が無い、収入が無いと携帯が使えない、携帯が使えないと依頼がこない・・・堂々巡りだ。
依頼人が直接ここに来るというのなら問題ないんだけど、それは裏新宿という立地条件が悪すぎる。
だからどうしても連絡手段を携帯に頼る事になるんだけど・・・
いや、携帯無しに依頼がくる当てが無い訳ではないんだけど・・・・あれはハッキリ言ってお勧めできない。
“あれ”は、俺も蛮ちゃんも本当に切羽詰った時・・命に関わるほどの極貧状態になった時だけ、と既に暗黙の了解である。
それは、ヘヴンさんに依頼の仲介を頼む事
―――
何せ彼女が俺達に回す仕事といったら、冗談抜きで命がいくつあっても足りない。
文字通り、生死の境を彷徨うものばかりだ。
まさにデッド・オア・アライブ ―――
ついでにいうなら、その頃の俺達の生活状況もデッド・オア・アライブ・・・・・(泣)
仕事に成功して生き延びるか (訳:成功したら収入が入り、御飯が食べられる)
はたまた失敗して死に絶えるか (訳:人に殺されるか、空腹に殺されるか)
ああ、【生きる事は戦いだ】って誰か言ってたっけ・・・(遠い目)
「・・・・・じ、銀次」
「な、何?」
ハッ、と我に返る。
「お前さんに電話だ」
波児さんはそんな俺に気にした素振りも見せず、受話器を差し出した。
「俺に・・・?」
自慢じゃないが、大抵がHONKY
TONKに居座っていると言っても過言じゃない俺に、わざわざ電話を掛けてくるような律儀な友人は殆ど居ない。
「少年王からだ」
波児さんがまるで俺の心を読んだように答えを返してくれる。
「う、うん、ありがとう」
ゾワリ ――――――――
受話器を受け取ろうと、俺が足を踏み出した瞬間、何か得体の知れないものが全身に走り抜けるのを感じた。
それは、虫の知らせというか、予感めいたものだったのかもしれない。
喜びも
哀しみも
懐かしさも
そして ――――――― 後悔も
その全てをひっくるめる様な“何か”が体の奥底から湧き上がるような、不思議な感覚。
『力を貸してください、銀次さん・・・・・』
受話器を取った俺に、マクベスは開口一番にそう告げた。
「それは勿論だけど・・・一体何が?」
マクベスのただならない様子に、向こうで何が起こっているのか不安になる。
『すいません・・自分が愚かだったばかりに・・・・・』
「落ち着こうよ、マクベス。
一体何があったのか、話してくれないと・・・って、蛮ちゃん!?」
不意に、背後に人の気配を感じた。
と同時に、手に持っていた受話器の感覚が無くなる。
慌てて自分から離れていく受話器を眼で追うと、その先には相棒である蛮ちゃんの姿。
「おいヒッキー、そういう仕事の依頼は銀次じゃなくてGet
Backars社長の美堂 蛮様に直接話しを持ってきてもらおうか」
『それは申し訳ない。
君が居た事をすっかり忘れていたよ』
「という事はあれだな?
ただ働きをさせようとしていたんだな、お前は」
『依頼料は、そうだな・・・』
「聞けよ、オイ・・・」
『仕事の出来次第ということでどうだろう』
「・・・・・・おい、俺達の実力なめてんのか!?
奪還率ほぼ100%のプロだぞ。
金だけ貰って仕事をおざなりにするようなチンケな奴等と一緒にするんじゃねえ」
・・・はい、今聞こえました・・蛮ちゃんのすぐ横に居る俺にはしっかり聞こえました・・・・・
【前金も無いのにそんなただ働きみたいなことできるか】
そこには、ケッ、とぼやく蛮ちゃんの姿・・・
つまりは、報酬額を聞かない事にはやる気が出ないって事だよね・・・
「それとも何か、依頼料ケチろうって魂胆じゃねえだろうな」
はい、依頼料をケチられたって『金の亡者』発言をした蛮ちゃんが文句を言える立場じゃないと思います。
そうは思っても決して口には出さない。
下手に口を出してあの“うめぼし攻撃”だけはごめんこうむりたい。
いや、釘バットもあの握力200kgで掴まれるのもタレた俺を雑巾絞りされるのもごめんだけどさ・・・
ああもう、蛮ちゃんがそんな事言うからマクベスも笑ってるじゃないか・・・
『いや、そういうつもりはないんだ。
寧ろ、そっちの方が君達にはいいと思うんだけどね』
「・・・そんなにやばい仕事を俺達に押し付けるつもりか、てめえ」
『それ位こちらが真剣だという事だよ』
不意に、マクベスの声音が変わった。
「ふん・・・それほど切羽詰った問題という事か。
いいぜ、やってやろうじゃねえか。
それで、依頼内容は?」
『今ここでは言えないんだ』
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「あ゛あ゛!?
お前ここまで散々引っ張っておいてそれか!
二時間ドラマのクライマックスに臨時ニュース流して強制終了させる位の嫌がらせだな、おい!」
あ〜、確かにあれは地味に何かの陰謀を感じるよね・・・・・・
陰謀を感じるといえばさ、最近仕事(依頼)先でよく赤屍さんに遭遇するんだよね。
・・・・・・・・ヘヴンさん、実は仕組んでませんか?(疑いの眼差し)
気〜が〜付けば傍に赤屍さんがいた〜 いつま〜で〜もぉ〜♪
・・・・・・・・・・・・・・・・・・本気(と書いてマヂと読む)で怖いんですけどぉぉ!!(泣)
・・・・ってそうじゃない! そうじゃないよ、俺!!
チャラララッチャラ〜♪
――
銀次はノリ突っ込みレベルが0.67上がった
――
何、その微妙な数字!?
って、ちっがーーーーう!!
でもノリ突っ込みができるなら、いっそこの漫才ブームに乗じてデビューしちゃった方が・・・・・
いつの間にかファンクラブなんかできちゃったりして、収録の後に出待ちの女の子達が「「銀次さーん♪」」なんて・・なんて・・・・・エ、エヘ。
チャララッチャラ〜♪
――
銀時は白昼夢のレベルが1352上がった
――
だから何、その微妙な数字!?
っていうか・・・白昼夢って、何?
チャララッチャラ〜♪
――
銀次のおつむのレベルが15下がった ――
これってイジメ!? 明らかなイジメだよねぇ!?
俺がそんな会話をしている間に(誰と)、蛮ちゃんとマクベスとの会話はいつの間にか終わりを迎えようとしていた。
『ここでは、“彼ら”の耳に入ってしまう恐れがあるからね』
「てめぇが管理しているその辺り一帯も、その中枢であるそこでさえも下手すれば会話が筒抜け・・・・・
ってことは、無限城絡みか・・・・・」
『今、そっちに“弦の花月”が向かっている。
詳しくは彼に聞くといい。
ただ、この依頼は・・・話を聞いた上で、銀次さんが受けるかどうかを決めてもらう』
「あぁ? 何だそりゃ・・・」
『これは“僕ら”の戦いだ、とでも言っておくよ。
それじゃあ』
言うだけは言ったとばかりにマクベスからの通話は途切れた。
その頃にはもういつもの光景 ―――― 夏実ちゃんは皿洗いに精を出し、波児さんは煙草を吸いながら再び新聞に目を通し始める。
そこには、既に役目を果たし終えた受話器を手に、俺と蛮ちゃんだけが訳が分からないとばかりに立ち竦んでいた。
―――
あとがき ――――――
あれ〜?
今回だけで無限城まで乗り込む辺りまで行きたかったんだけどな・・・
銀次くん視点で書いてみましたが、どうもキャラ視点になると色々心情が入り込む為、ダラダラと書いてしまうようです。
今回ヒロインのヒの字もでなかったな・・・
進みの遅さには苦しみますが、所々にネタを仕込むのは文字を打ってて楽しいデス、ハイ。
途中に出てくるCMソングネタは、私と妹がその歌で替え歌をしていた物を更に改良した物だったりします。(ネタバレ)
up:2007.3.14